未経験からデザイナーを目指すとき、「実案件がないからポートフォリオに載せる作品がない」と悩む人は多いです。
でも、架空案件でも問題ありません。トレース作品も、きちんと明記して完成度が高ければ、基礎力を見る材料になります。
私は制作会社でデザイナー採用に関わってきましたが、未経験者のポートフォリオでは、作品の第一印象だけでなく、誰に向けて、何を考えて、なぜこのデザインにしたのかまで見ていました。
この記事では、Web・グラフィックデザイナーを目指す人向けに、載せる作品数、架空案件やトレースの扱い、採用側が見るポイントを解説します。
りす先生は、デザイナー歴26年、現役でデザインスクール講師もしているスクエアワークスの中の人です。採用側の目線も交えて、未経験者にも分かりやすく解説します。
未経験でも採用されるポートフォリオは作れる
未経験だからといって、実案件がないことを気にしすぎる必要はありません。
採用する側も、未経験者に豊富な実績があるとは思っていません。大事なのは、今の自分がどこまで考えて、どこまで作れるのかが伝わることです。
私が採用に関わっていたときも、架空案件だから評価しないということはありませんでした。完成度が高く、
- 誰をターゲットにしたのか
- お店やクライアントは何を希望している設定なのか
- その要望に対して、なぜこのデザインにしたのか
まで考えられていれば、十分に評価材料になります。
もちろん、実案件があれば優先して載せたいです。実際の依頼に対して制作した経験は、仕事の流れを知っていることも伝えられます。
ただ、完成度の低い実案件だけを並べるより、完成度の高い架空案件を加えた方が、その人のデザイン力は伝わりやすいこともあります。
ポートフォリオは「実績の数を見せるもの」というより、未経験者の場合は特に、自分がどんなデザインを考えて作れるのかを見せるものだと思ってください。
未経験なら「実案件がないから作れない」で止まらなくて大丈夫です。架空案件でも、ターゲットや依頼内容まで自分で設定して作れば、十分ポートフォリオの作品になります。
採用側はポートフォリオのどこを見ている?
未経験者のポートフォリオを見るとき、私は「実案件が何件あるか」だけで判断していたわけではありません。
まず見るのは作品そのものです。そのうえで、この人は何を考えて作ったのか、自分で判断してデザインできているかを見ていました。
最初に目に入るのは、やはり作品の第一印象です。
レイアウト、文字の大きさ、余白、配色、写真の扱いなどを見れば、デザインの基礎がどこまで身についているかはある程度分かります。
また、同じようなテイストばかりではなく、業種や媒体に合わせて表現を変えられているかも見ます。
未経験者の場合、最初から完璧である必要はありません。
最低限の基礎があり、これから伸びそうかは判断材料になります。
私が特に評価しやすいと感じるのは、作品の横に制作背景が書いてあるポートフォリオです。
たとえば架空案件でも、
- ターゲットは誰か
- お店やクライアント側の希望は何か
- どんな目的で制作したのか
- なぜこの配色やレイアウトにしたのか
まで書いてあると、その人が考えて作っていることが伝わります。
逆に、完成したデザインだけが並んでいると、見た目は分かっても、どこまで自分で考えたのか判断しにくいです。
架空案件でも、ターゲット・依頼内容・制作意図まで設定してあれば、採用側はその人の考え方を見やすくなります。
未経験者の採用で、完成度だけを見ていたわけではありません。
少し荒さがあっても、
- 基礎が身についている
- 指摘したら修正できそう
- 自分で考えて作っている
- 学ぶ姿勢が感じられる
といった部分があれば、伸びしろを感じます。
反対に、見た目は整っていても、制作意図がなく、なぜこのデザインにしたのか説明できないと評価しにくいです。
未経験者のポートフォリオでは、「今どこまでできるか」だけでなく、「これからどこまで伸びそうか」も見ています。だからこそ、作品だけでなく、考えた過程も伝えてほしいです。
未経験者のポートフォリオに載せる作品は何でもいい?
未経験者の場合、実案件だけでポートフォリオを埋めるのは難しいと思います。
だからこそ、架空案件やスクール課題、トレース作品を使っても大丈夫です。ただし、何を載せるかだけでなく、どう見せるかが大切です。
実案件があるなら、私は優先して載せます。
実際の依頼に対して制作した経験は、仕事としてデザインしたことを伝えられるからです。
ただ、未経験者なら実案件が少なくて当然です。そこで、架空案件を使って作品数を補うのは問題ありません。
むしろ、完成度の低い実案件を無理に並べるより、ターゲットや依頼内容まで自分で考えて作った完成度の高い架空案件がある方が、デザイン力を判断しやすいこともあります。
架空案件なら、作品と一緒に
- ターゲット
- 店舗・企業側の希望
- 制作目的
- 制作意図
まで書いておくと、より伝わりやすくなります。
スクールで作った課題をポートフォリオに載せること自体は問題ありません。
学習中に作った作品も、今のデザイン力を見せる材料になります。
ただ、採用側でポートフォリオを見ていると、同じスクールの課題だと分かる作品が並んでいることがあります。
課題は決められた条件や見本をもとに制作することも多いため、それだけでは、その人自身がどこまで考えて作れるのか判断しにくいことがあります。
そのため、スクール課題を載せるなら、できれば自分で企画したオリジナル作品も追加してほしいです。
課題で基礎を学び、そのあと自分で考えて一から作る。そこまでできると、ポートフォリオとしてかなり強くなります。
未経験者なら、模写やトレース作品を載せるのもありだと思っています。
ただし、必ず「模写作品」「トレース作品」と明記してください。
自分で考えたオリジナル作品のように見せるのはNGです。
一方で、元のデザインをかなり正確に再現するのは、初心者にとって簡単ではありません。
文字サイズ、余白、位置、色、写真の扱いなどを細かく観察しないと、同じようには作れません。
そのため、トレース作品だと明記したうえで完成度が高ければ、観察力やツール操作の基礎が身についていることは十分伝わります。
ただし、ポートフォリオの中心がトレース作品ばかりになるのはおすすめしません。
トレースで基礎力を見せつつ、最終的にはオリジナル作品で「自分で考えて作れる」ことも見せてください。
未経験なら、架空案件・スクール課題・トレース作品を使って大丈夫です。ただ、最終的には「自分で考えて作った作品」があることが大切。採用側としては、そこを見たいです。
Webデザイナーのポートフォリオは何作品必要?
作品数に「絶対この数」という正解はありません。
ただ、未経験者の場合は少なすぎると判断材料が足りませんし、反対に数を増やすために完成度の低い作品まで入れる必要もありません。
私なら、作品数より「Webデザイナーとして何が作れるかの幅」が伝わるかを見ます。
まず、Webサイトは1〜2サイトあると見やすいです。
たとえば、
- コーポレートサイト
- 店舗サイト
- サービスサイト
- ECサイト
など、業種や目的を変えて作れるとなお良いです。
同じようなデザインを何サイトも並べるより、違う業種・ターゲットに合わせて表現を変えられることが伝わる方が評価しやすいです。
Webデザイナーを目指すなら、サイト作品は多いほど判断材料になりますが、数だけ増やして完成度を下げる必要はありません。
バナーは5〜10点くらいあると、デザインの幅を見せやすいです。
ただし、同じテイストのバナーを10枚並べるより、
- 飲食
- 美容
- 教育
- 転職
- EC
など、業種やターゲットを変えた方がいいです。
サイズや用途も変えられると、実務を想定して作っていることが伝わります。
バナーは比較的作りやすいので、未経験者が作品数を増やすときにも向いています。
Webサイトやバナーだけでなく、LPもあるとさらに良いです。
LPは1ページの中で、
- 情報の優先順位
- 写真や文字の見せ方
- セクションごとのデザイン
- 最後まで読ませる構成
まで考える必要があります。
そのため、Webサイト・LP・バナーのように種類が分かれていると、その人がどこまでWebデザインに対応できるか判断しやすくなります。
もちろん、全部を最初から揃える必要はありません。
まずは質の高いWebサイトを1〜2サイト作り、そこにバナーやLPを足していくくらいで十分です。
Webのポートフォリオは、作品数だけでなく「どんな種類のデザインができるか」を見せるのが大切です。同じ業種・同じテイストばかりにならないようにすると、仕事の幅も伝わりやすくなります。
グラフィックデザイナーのポートフォリオは何作品必要?
グラフィックデザイナーの場合も、作品数だけを増やすより、どんな媒体・業種に対応できるかが伝わることが大切です。
私なら、名刺やショップカード、チラシ、パンフレットなど、種類の違う制作物を入れて、その人の対応できる幅を見ます。
名刺やショップカードは、比較的小さな制作物ですが、限られたスペースの中で情報を整理する力が出やすいです。
5点前後を目安に、業種やテイストを変えて作ると見せやすくなります。
たとえば、
- 美容室
- 飲食店
- 士業
- アパレル
- 個人事業
など、ターゲットの違う案件を入れると、表現の幅も伝わります。
同じような雰囲気のカードを何点も並べるより、業種によってデザインを変えられることを見せた方が評価しやすいです。
チラシは、文字・写真・価格・日時・地図など、情報量が多くなりやすい媒体です。
そのため、
- 何を一番目立たせるか
- どの順番で読ませるか
- ターゲットに合う見せ方ができているか
といった、情報整理の力を見やすいです。
2〜3点ほどでも、飲食・美容・イベントなど業種を変えて作ると十分幅が出ます。
グラフィックデザイナーを目指すなら、私はチラシ作品を入れておくことをおすすめします。
パンフレットや冊子は、1案件あるだけでもかなり見応えがあります。
表紙だけではなく、
- 中面のレイアウト
- ページごとの情報整理
- 写真や文字の統一感
- 全体のトーン
- 複数ページを通した一貫性
まで見られるからです。
グラフィックデザインの仕事では、単発の1ページだけでなく、複数ページを通してデザインを揃える力も必要です。
そのため、完成度の高いパンフレットや冊子が1つあると、実務を意識して制作できることが伝わりやすいです。
グラフィックのポートフォリオで意識してほしいのが、
1案件の中では一貫性を出すこと。
ポートフォリオ全体では業種や媒体の幅を見せること。
です。
たとえば、ある店舗の案件なら、
名刺
ショップカード
チラシ
パンフレット
を同じブランドイメージで揃える。
一方、ポートフォリオ全体では、飲食・美容・企業・イベントなど違う業種も入れる。
そうすると、ブランドの統一感を作る力と、案件ごとに表現を変える力の両方が伝わります。
グラフィックは、作品数より「どれだけいろいろな媒体を作れるか」が見えた方が強いです。カード類、チラシ、パンフレットなどを組み合わせて、1案件では一貫性、全体では幅を見せるのがおすすめです。
Webとグラフィックではポートフォリオの見せ方も変わる
載せる作品だけでなく、ポートフォリオそのものをどう見せるかも大切です。
Webデザイナーとグラフィックデザイナーでは、仕事で扱う媒体が違うので、ポートフォリオの見せ方も少し変わります。
Webデザイナーを目指すなら、ポートフォリオサイトは作っておくことをおすすめします。
作品を見るためのサイトですが、同時にそのポートフォリオサイト自体も一つのWeb制作物になるからです。
採用側からすると、
- 情報をどう整理しているか
- 作品を見やすく配置できているか
- Webページとしてデザインできているか
- PCだけでなくスマホでも見やすいか
といった部分も見ることができます。
PDFのポートフォリオでも作品は確認できますが、Webデザイナー志望なら、サイト形式がある方が「Webで見せるところまでできる」と伝わりやすいです。
さらに、Webサイト・LP・バナーなど複数の種類を載せておくと、対応できる仕事の幅も分かります。
Webデザイナーなら、ポートフォリオサイトそのものも作品の一つだと考えて作るのがおすすめです。
グラフィックデザイナーの場合は、Web上のポートフォリオだけでなく、冊子として作り込んだポートフォリオも強いです。
私は採用側で見るなら、紙質や製本、ページ構成まで考えられたポートフォリオを持ってきた人は印象に残ります。
グラフィックデザインは、画面の中だけで完結する仕事ではありません。
紙の種類や厚さ、サイズ、ページをめくったときの見え方など、実際に印刷された状態まで考える仕事も多いです。
そのため、ポートフォリオ自体を、
- 表紙
- ページ構成
- 余白
- 写真の見せ方
- 紙や製本
まで含めて一つの制作物として仕上げると、グラフィックデザイナーとしてのこだわりが伝わります。
特にパンフレットや冊子系の仕事をしたいなら、「これが自分のポートフォリオです」と自信を持って出せる一冊を作ってみてほしいです。
Webならサイトで見せる、グラフィックなら紙でも魅せる。ポートフォリオの中身だけでなく、見せ方そのものにもその人のデザイン力は出ます。
採用側から見て「もったいない」と感じるポートフォリオ
未経験者のポートフォリオは、完成度が多少低くても問題ありません。
私も採用側で見るときは、今のレベルだけでなく「これから伸びそうか」も見ていました。
ただ、判断材料そのものが少ないポートフォリオは、評価したくても評価しにくいです。
たとえば、作品が1〜2点だけで、ターゲットや制作意図の説明もない場合。
作品の見た目は分かっても、
「この人は他のテイストも作れるのか」
「自分で考えて作ったのか」
「なぜこのデザインにしたのか」
が分かりません。
未経験だから作品数が少ないのは仕方ありませんが、採用側からすると、材料が少なすぎると判断できないのが正直なところです。
だからこそ、実案件が足りないなら架空案件を作って補えば大丈夫です。
作品ごとに、
- ターゲット
- クライアント・店舗側の希望
- 制作目的
- 制作意図
を短くてもいいので書いておくと、その人の考え方がかなり伝わります。
また、完成度に少し課題があっても、基礎ができていたり、作品ごとに工夫が見えたりすれば「これから伸びそう」と感じることもあります。
未経験者のポートフォリオは、完璧さよりも「採用側が判断できる材料をきちんと出すこと」が大切です。
作品が少ないことより、何を考えて作ったのか分からない方がもったいないです。架空案件でもいいので、作品を増やして制作意図まで見せてください。
未経験者がポートフォリオを作る手順
ここまで読んで、「結局どこから作ればいいの?」と思った人もいると思います。
未経験者は、いきなりポートフォリオを完成させようとするより、必要な作品を決めて、足りないものを作りながら整えていく方が進めやすいです。
まずは、Webデザイナーなのか、グラフィックデザイナーなのかを決めます。
WebならWebサイト・LP・バナー、グラフィックなら名刺・チラシ・パンフレットなど、必要な作品が変わるからです。
最初から何でもできるように見せようとせず、自分が応募したい仕事に近い作品を優先してください。
次に、これまで作った作品を整理します。
- 実案件
- スクール課題
- 自主制作
- 架空案件
- 模写・トレース
などを一度全部並べてみます。
その中から、完成度が高く、今の自分の力を見せやすいものを選びます。
実案件があるなら優先したいですが、無理に全部載せる必要はありません。
作品が少ない、ジャンルが偏っているなら、架空案件を追加します。
たとえば、
「美容室の20〜30代女性向けキャンペーン」
「地域の飲食店が新規客を増やすためのチラシ」
のように、ターゲットや依頼内容まで設定して作ります。
ただ見た目を作るのではなく、仕事を依頼されたつもりで条件を決めるのがポイントです。
ポートフォリオに入れる前に、一度作品を見直してください。
できれば、デザイナーや講師など第三者から添削を受けるのがおすすめです。
自分では気づかなかった、
- 文字が読みにくい
- 情報の優先順位が弱い
- 余白が不自然
- ターゲットと雰囲気が合っていない
といった部分が見つかることがあります。
作ったまま載せるのではなく、直してから載せる。
このひと手間で完成度は変わります。
作品が整ったら、それぞれに説明を加えます。
最低限、
- ターゲット
- 依頼内容・目的
- 制作意図
があると分かりやすいです。
長い文章を書く必要はありません。
採用側が「何を考えて作ったのか」を理解できれば十分です。
最後に、作品を一つのポートフォリオとしてまとめます。
Webデザイナーならポートフォリオサイト、グラフィックデザイナーならPDFや冊子など、自分が目指す仕事に合う見せ方を選びます。
このときも、作品をただ並べるのではなく、
最初に見せたい作品 → 得意な作品 → 幅を見せる作品
のように順番を考えてください。
ポートフォリオ全体も、一つのデザインです。
最初から完璧なポートフォリオを作ろうとすると止まりやすいです。まず今ある作品を整理して、足りないものだけ作る。そこから添削して整えていけば大丈夫です。
まとめ|未経験なら作品数より「自分で考えて作ったこと」を見せよう
未経験者のポートフォリオで大切なのは、実案件の数を競うことではありません。
採用側も、未経験者に豊富な実務経験があるとは思っていません。
だからこそ見たいのは、
- 誰に向けて作ったのか
- どんな依頼・目的を想定したのか
- なぜこのデザインにしたのか
- 自分でどこまで考えて作ったのか
という部分です。
実案件があれば優先して載せたいですが、架空案件でも完成度が高ければ問題ありません。スクール課題やトレース作品も、きちんと明記したうえで、自分の力を見せる材料として使えます。
ただし、ポートフォリオ全体が課題やトレースだけにならないようにして、自分で一から考えたオリジナル作品も必ず入れてほしいです。
私が採用側なら、作品数だけ多いポートフォリオより、ターゲットや依頼内容、制作意図まで説明できる作品が揃っている方を詳しく見ます。
WebデザイナーならWebサイト・LP・バナーなど、グラフィックデザイナーなら名刺・チラシ・パンフレットなど、自分が目指す仕事に合わせて作品を揃えていきましょう。
未経験者のポートフォリオは、「何を作ったか」だけでなく「どう考えて作ったか」まで見せることが大切です。
実務経験がないからといって、ポートフォリオ作りを後回しにしなくて大丈夫です。架空案件でもいいので、まず一つ、自分で条件を考えて作品を作ってみてください。そこから添削して直していけば、少しずつ採用側に伝わるポートフォリオになります。


