IllustratorやPhotoshopの操作を覚えても、いざ自分で作ると「なんとなくまとまらない」「見本のように見えない」ということがあります。そこで「自分にはデザインセンスがない」と感じる人もいます。
でも、仕事で必要なデザイン力は、感覚だけで身につくものではありません。良いデザインを観察して、実際に作り、見比べて直す。 この練習を繰り返すことで、文字・余白・配色・レイアウトを見る力は少しずつ身につきます。
私自身も、新人の頃は先輩に教わりながらトレースを繰り返してきました。現在はデザインスクールで初心者の作品を添削していますが、上達する人ほど「作って終わり」ではなく、違いに気づいて次の制作に活かしています。
この記事では、未経験者がデザインセンスを磨くためのトレース・アレンジ・言語化・フィードバックの4つの練習法を、現役デザイナー・講師の経験から解説します。
デザイナー歴26年、現役でデザインスクール講師もしているスクエアワークスの中の人です。私も最初から上手に作れたわけではありません。今回は、未経験のうちにやっておきたい練習を、実際の経験を交えて紹介します。
デザインセンスは練習で磨ける

デザインセンスというと、生まれつきの感覚や才能のように思われがちです。
でも、仕事で必要なのは「なんとなくいいものを作れる感覚」だけではありません。
たとえば、
- どの文字を一番目立たせるか
- 余白をどのくらい取るか
- どの色を組み合わせるか
- 写真をどこに置くか
- 情報をどの順番で見せるか
といったことを、目的に合わせて判断する力です。
未経験のうちは、良いデザインを見ても「なんとなくきれい」「なんとなく見やすい」としか感じられないことがあります。
でも、実際に自分で作って見比べてみると、「文字が大きすぎる」「余白が狭い」「色が多すぎる」など、少しずつ違いが分かるようになります。
私自身も、最初からデザインセンスがあったわけではありません。
初めて作ったチラシは、今振り返るとかなりひどい出来でした。あのデザインにOKを出してくれた営業担当の方やクライアントには、今でも感謝しています。
そこから、仕事の中でとにかくたくさんデザインを作りました。先輩に直され、作り直し、また次を作る。その繰り返しで、少しずつ「どこを直せばよくなるか」「どうすれば伝わりやすくなるか」が分かるようになっていきました。
現在はデザインスクールで初心者の作品を見る立場になりましたが、上達が早い人も、最初からセンスがある人というより、作ったものを見直して、次の制作で改善できる人です。
だから私は、デザインセンスは最初から持っているかどうかではなく、
見る → 作る → 比べる → 直す
を繰り返す中で磨いていけるものだと考えています。
まずは、良いデザインを細かく観察する練習として、トレースから始めてみましょう。
私の初めてのチラシは、今見るとかなりすごいデザインです(笑)。それでも、そこから必死にたくさん作って、一人前のデザイナーになりました。最初から上手に作れなくても大丈夫です。
練習1 トレースしてデザインの違いを観察する

デザインの練習を始めるなら、まずおすすめしたいのがトレースです。
トレースは、参考にするデザインを見ながら、IllustratorやPhotoshopなどでできるだけ同じように再現する練習です。
ただし、そっくり作ることだけが目的ではありません。大切なのは、プロがどのように文字・写真・色・余白を組み立てているのかを観察することです。
基本的には、次の流れで進めます。
- 参考にするデザインを選ぶ
- IllustratorやPhotoshopでできるだけ再現する
- 元デザインと自分の制作物を見比べる
- 文字・色・余白・配置の違いを確認する
- 気づいたことをメモする
たとえば、「タイトルが思っていたより小さい」「写真と文字の間にしっかり余白がある」「使われている色は意外と少ない」など、実際に作ると見るだけでは気づかなかったことが分かります。
私も新人の頃、最初は意味を考えずにトレースしていました。
あるとき先輩から、参考にしていたチラシについて「この余白が何mmあるか、定規で測ってきて」と言われたことがあります。
当時の私は、見た目を真似することばかり考えていて、余白がどのくらい取られているのかまで細かく見ていませんでした。
でも、実際に測ってみると、「ここは思ったより広く空けている」「文字同士の間隔にも差がある」など、今まで見えていなかったことに気づきました。
トレースでは、ただ形を写すのではなく、
- なぜこの文字は大きいのか
- なぜここに余白があるのか
- なぜこの色数でまとめているのか
と、少し立ち止まって見ることが大切です。
見本と自分の制作物を比べて、「何が違うのか」が分かるようになると、少しずつデザインを見る力が身についてきます。
トレースは「きれいにコピーできたら終わり」ではありません。作ったあとに元デザインと見比べるところまでやると、学べることがぐっと増えます。
練習2 トレースしたデザインを別のターゲット向けにアレンジする

トレースに慣れてきたら、次は見本をそのまま再現する段階から、自分で選んで変える段階へ進みます。
おすすめなのは、トレースしたデザインのターゲットを変えてアレンジする練習です。
たとえば、
20代女性向けのセミナーチラシ
↓
40代男性向けのビジネスセミナーチラシ
に変更してみます。
ターゲットが変われば、そのまま同じ見た目を使うわけにはいきません。
- 配色を変える
- フォントを変える
- 写真を変える
- 装飾を変える
- 情報の見せ方を変える
など、自分で判断して調整していきます。
たとえば、20代女性向けに柔らかい色や親しみやすい写真を使っていたなら、40代男性向けでは落ち着いた色やビジネス感のある写真に変えた方が合うかもしれません。
もちろん、「男性だからこの色」「40代だからこのデザイン」と決めつける必要はありません。大切なのは、誰に何を伝えるデザインなのかを考えて、自分で選び直すことです。
この練習をすると、ただ見本を再現するだけでは身につきにくい「判断する力」が鍛えられます。
トレースとオリジナル制作の間に、このアレンジ練習を入れると、白紙から作る前のステップとして取り組みやすいです。
トレースは「見る練習」、アレンジは「自分で選ぶ練習」です。見本を少しずつ離れて、自分で判断する感覚をつけていきましょう。
練習3 作ったデザインを言葉で説明してみる

デザインを作ったら、次は**「なぜこうしたのか」を自分の言葉で説明する練習**をしてみてください。
たとえば、
- 誰に向けたデザインなのか
- 一番伝えたいことは何か
- なぜこの色を選んだのか
- なぜこのレイアウトにしたのか
- どこを一番目立たせたのか
このあたりを、簡単でいいので言葉にします。
うまく説明できない部分があれば、そこはまだ「なんとなく」で決めている可能性があります。
仕事のデザインでは、自分が好きだからこの色にした、なんとなくこの配置にした、ではなく、目的や相手に合わせて選ぶことが必要です。
逆に、「この人に見てもらいたいから、この写真を大きくした」「一番伝えたい情報なので、ここだけ文字を大きくした」と説明できれば、デザインの判断にも理由が出てきます。
私が添削するときも、完成した見た目だけではなく、何を考えてそのデザインにしたのかを確認することがあります。
制作意図を言葉にできるようになると、自分でデザインを見直しやすくなりますし、この力はあとでポートフォリオを作るときにも役立ちます。
「なんとなく良さそう」で作るのではなく、自分の選んだ理由を説明できるようになると、デザインの考え方がぐっと整理しやすくなります。一人で完結しようとしないこと。これが、独学を成功させる上でいちばん大切なことかもしれません。
練習4 フィードバックを受けて作り直す

自分で作ったデザインは、見慣れてしまうと改善点に気づきにくくなります。そこで、できれば第三者に見てもらって、フィードバックを受けてみてください。
講師や現役デザイナーに見てもらえる環境があれば理想ですが、必ずしもプロでなくても構いません。大切なのは、自分以外の視点を入れることです。
ただし、言われた通りに直して終わりでは、次の制作につながりにくいです。
たとえば「この文字を小さくした方がいい」と言われたら、
- なぜ小さくした方がいいのか
- どの情報を優先して見せたいのか
まで考えてみます。
私が講師として見ていても、指摘されたところだけを直す人は、次の作品でも同じところで迷いやすいです。
一方で、修正する理由まで理解できる人は、その考え方を次の作品でも使えるようになります。
フィードバックは、作品を直すためだけのものではありません。自分では気づかなかった見方を知り、次の制作に活かすためのものです。
修正後は、元のデザインと見比べて「どこが変わったか」「なぜ良くなったか」まで確認しておくと、学びが残りやすくなります。
添削で一番もったいないのは、言われたところだけ直して終わることです。「なぜ直すのか」まで分かると、次の作品で同じことを自分で判断できるようになります。
デザイン練習でやりがちな3つの失敗

デザインは、ただ数をこなせば上達するわけではありません。
練習のやり方によっては、時間をかけても同じところでつまずき続けることがあります。ここでは、初心者がやりがちな3つの失敗を紹介します。
トレースで見本に近いものが作れると、それだけで達成感があります。
でも、そっくり再現できたことより大切なのは、元のデザインと比べて何に気づいたかです。
文字の大きさ、余白、色数、写真の配置などを見比べて、「自分はここを見落としていた」と分かれば、その気づきを次の制作に活かせます。
トレースは完成させることではなく、デザインを見る力を身につけるための練習として使いましょう。
「毎日1作品」「まず30作品」など、目標を決めて手を動かすこと自体は悪くありません。
ただ、作品数だけを増やしても、同じ作り方を繰り返しているだけでは上達しにくいです。
1作品作ったら、
作る → 見比べる → 気づく → 直す
までをセットにしてみてください。
たくさん作ることより、ひとつの制作から何を学んだかの方が大切です。
添削で「ここを直してください」と言われ、その部分を直せば作品は良くなります。
でも、それだけでは次の作品でまた同じことを指摘されることがあります。
「なぜ文字を小さくするのか」「なぜ余白を広げるのか」まで理解しておくと、次は自分で判断できるようになります。
フィードバックを受けたら、修正内容だけでなく、その理由をひとつ持ち帰ることを意識してみてください。
練習では「何作品作ったか」より、「前より何が分かるようになったか」を見てほしいです。同じ作品を何度か直すことも、十分デザインの練習になります。
まとめ|デザインセンスは作って直すことで磨かれる

デザインセンスを磨くには、特別な才能よりも、良いデザインを見て、実際に作り、比べて、直すことが大切です。
今回紹介した練習は、次の4つです。
- トレースして、プロのデザインを観察する
- ターゲットを変えて、自分でアレンジする
- 作った理由を言葉にする
- フィードバックを受けて作り直す
この流れを繰り返すと、最初は「なんとなく違う」としか分からなかった部分も、少しずつ「ここを直せばよくなる」と判断できるようになります。
私自身も、最初からデザインが上手だったわけではありません。たくさん作って、先輩に直されて、また作る。その積み重ねで仕事としてデザインできるようになりました。
だから、今うまく作れなくても、そこで「センスがない」と決める必要はありません。
前より見えることが増えたか、前より自分で直せるようになったか。 そこを見ながら練習を続けてみてください。
そして、トレースやアレンジで「なぜこのデザインにするのか」を考えられるようになってきたら、次は見本なしで作品を作る段階です。
デザインは、作った数だけでなく、直した数も経験になります。少しずつ「自分で判断できること」を増やしていきましょう。
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